非結核性抗酸菌症
非結核性抗酸菌症(NTM症)について
― 結核ではない“抗酸菌”による慢性感染症 ―
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◆ 非結核性抗酸菌症とは?
非結核性抗酸菌症(ひけっかくせいこうさんきんしょう)とは、「抗酸菌」という細菌のうち、結核菌やらい菌を除く菌によって引き起こされる慢性的な肺の感染症です。
NTM(Non-Tuberculous Mycobacteria)症とも呼ばれます。
結核とは異なり、人から人にうつることはほとんどなく、発症にも個人差があります。
年々患者数が増加しており、特に中高年の女性や肺に持病のある方、やせ型の方に多くみられます。
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◆ 主な原因菌
非結核性抗酸菌は、自然界(⽔・⼟壌)に広く存在する常在菌です。
その中で、肺感染を起こす代表的なものには次の2つがあります:
•マック菌(Mycobacterium avium complex:MAC菌)
最も多い原因菌。進行は緩やかですが慢性化しやすい。
•カンサシ菌(Mycobacterium kansasii)
MAC菌より進行がやや早く、治療により治癒することが多い。
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◆ 症状
進行はゆっくりで、初期にはほとんど症状が出ないこともあります。
徐々に以下のような症状があらわれてきます:
•長引く咳(慢性の空咳または痰がらみ)
•痰に血が混じる(血痰)
•微熱や発熱
•体重減少、全身のだるさ
•胸部の違和感、息切れ
※他の病気(結核、COPD、肺がんなど)と似た症状のこともあり、しっかりした検査と鑑別が必要です。
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◆ 診断
非結核性抗酸菌症の診断には、以下の条件を満たすことが必要です:
1.胸部CTで特徴的な肺病変が見られる
(※小さな粒状影、気管支拡張、空洞など)
2.痰や気管支洗浄液から抗酸菌が検出される(2回以上)
3.他の病気(結核、肺がん、真菌症など)ではないことを確認
特に胸部CTは、レントゲンでは写りにくい初期病変の発見に役立ちます(胸部CT検査は他院に紹介となります)。
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◆ 治療
● 経過観察(すぐに治療を始めない場合もある)
症状が軽く、進行が遅い場合は、定期的な検査・画像評価で経過を観察します。
すぐに薬を始めることで副作用が出るリスクもあるため、「慎重に様子をみる」という選択も治療の一つです。
● 薬物療法(複数の抗菌薬を併用)
以下の3剤併用が基本になります(MAC菌の場合):
•クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン(マクロライド系)
•リファンピシン(抗結核薬)
•エタンブトール(抗結核薬)
治療は期間は1年〜2年以上におよぶこともあり、長期的な内服管理と副作用のチェックが必要です(専門病院での治療継続が一般的です)。
カンサシ菌など他の菌種の場合、薬の種類や治療方針が異なる場合があります。
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◆ 治療の注意点
•病気の進行は非常にゆっくりのことが多く、焦らず確実な管理が重要です。
•**薬の副作用(肝機能障害、視力障害、発疹など)**にも注意が必要です。
•服薬の中断や自己判断での中止は、耐性菌のリスクを高めるため厳禁です。
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◆ こんな方は要注意
•長引く咳や痰があり、風邪薬や抗生物質で良くならない
•肺の病気(COPD、気管支拡張症など)をもっている
•やせ型・中高年の女性で、微熱や疲労が続いている
•胸部レントゲンで「異常影」や「肺の陰影」を指摘されたことがある
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◆ まとめ
非結核性抗酸菌症は、進行が遅くても治療には根気が必要な慢性の感染症です。
放置すると病変が広がり、肺機能の低下や血痰、呼吸困難につながることもあります。治療については専門病院への紹介が必要となります。